七割の開放感と、三割の喪失感。 意外と、別れた直後の今は楽だ。 LINEの通知にビクつかなくていいし、予定を相手に合わせなくてもいい。ちょっと歩くだけで、自分の時間が戻ってきた感じがする。
でも、不意に沈黙が来る。 ふとスマホを見たとき、あの子からの連絡がもう来ないんだって思うと、心のどこかが少しだけ痛くなる。小さい棘が刺さったような、無視できるけど完全には無かったことにできない、あの感じ。
思えば、最初は俺が合わせすぎた。 いい顔をして、無理して、ちゃんとした恋人っぽく振る舞っていた。 でも本当は、もっと気楽でいたかったし、干渉もされたくなかった。 それを伝える前に、もう溝はできてた。 相手を理解できなくなっていたし、俺も理解される気がしなかった。
相手もだんだん素を見せてくれた。 イライラしている姿や悲しむ姿。でも、相手の気持ちを理解できなかった。 俺はとても冷淡な人間なのだろう。彼女が何を望んでいたのか今となってはわからない。
彼女の泣き顔を見ても、胸が痛まなかった。 それが決定的だった。 俺は、もうその時点で気持ちが離れていたのかもしれない。 泣かれても、「なんで泣いてるの?」って思ってしまった。 共感じゃなく、困惑。抱きしめる腕が動かなかった。
話し合いをしようとした日、彼女はちゃんと自分の気持ちを伝えてくれた。 将来のこと、不安なこと、俺に対してどう感じているか。 でも俺の頭は別の場所にあった。「ああ、このままじゃダメだな」って思考だけが繰り返されていた。 口では頷いていたけど、心ではもう答えが出ていた。
俺は彼女を好きだったと思う。 でも、それは「関係の中の彼女」であって、「彼女そのもの」ではなかったのかもしれない。 都合のいい理想像を投影して、その幻に惚れていた。 そして、現実の彼女がその像からはみ出すたびに、俺は少しずつ冷めていった。
今は、ひとりでいることの軽さに救われてる。 だけどそれは、過去の重さがあったからこそ、感じられる軽さなんだろうな。 そう思うと、やっぱり恋ってめんどくさい。
それでも、また誰かを好きになってしまう日が来るのだろうか。 今はただ、自分のペースで、静かに暮らしていく。